名古屋高等裁判所 平成2年(ネ)257号 判決 1991年6月27日
主文
原判決を取り消す。
被控訴人は控訴人に対し、金一六八〇万二八三三円及び内金四五万九一九九円に対する昭和五五年三月一五日より、内金一〇四一万四二四六円に対する昭和五五年六月二七日より、内金五九二万九二三五円に対する昭和五六年二月二一日より各支払いずみまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
この判決は仮に執行することができる。
事実
控訴代理人は、主文第一ないし第三項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、
被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次に付加する外、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
(控訴代理人の陳述)
一 原判決三枚目表五行目の「訴外細谷重信」から同六行目末尾までを「平成元年七月二一日訴外細谷重信から金一三一六円の入金があったので、これを代位弁済をした翌日である昭和五五年三月七日から同月一四日までの約定利率年一四・六パーセントの割合による損害金一四六九円の一部に充当した結果、同日における未収損害金は、金一五三円となった。」に改め、同四枚目表四行目の「本州から」の次に「合計」を、同六行目の「金五七万六三六四円を」の次に「代位弁済をした翌日である昭和五五年六月二六日から昭和五六年二月二〇日までの約定利率年一四・六パーセントの割合による」をそれぞれ加え、同五枚目表六行目の「金一六八〇万二八三三円」を「代位弁済をした金額の合計金一六八〇万二六八〇円と前記未収損害金一五三円の総計金一六八〇万二八三三円」に改める。
二 原判決六枚目表二行目から同五行目までを、次のとおり改める。
「1 株式会社本洲木工(以下「本洲木工」という)、及び株式会社本州(以下「本州」という)は、いずれも昭和五四年破産宣告を受けたので、瀬戸信金は昭和五五年一月一六日、破産裁判所に対し本件貸金債権を含む破産債権の届出をしたところ、右破産債権は同年一月二四日異議なく確定し、その旨債権表に記載された。
2 右債権表の記載は、破産法二四二条により、確定判決と同一の効力があるから、本件貸金債権の消滅時効期間は、民法一七四条ノ二によって、破産終結決定の翌日から一〇年に延長された。
3 本件求償権は、本洲木工及び本州と控訴人との間の信用保証委託契約に基づくものとはいえ、主たる債務の消滅時効の期間が一〇年に延長されたときは、これに応じて連帯保証人の債務の時効期間も延長されると解すべきであるから、本件求償権の時効期間も同様に延長されたというべきである。
4 しかも、控訴人は、前記のとおり、瀬戸信金に代位弁済をしたことにより、本洲木工に対する債権については昭和五五年三月一二日、また本州に対する債権については同年七月八日、破産裁判所に対して債権移転の届出をしたから、これにより瀬戸信金の有する破産手続上の地位を承継した。
5 さらに、控訴人は本州から、昭和五五年一二月二〇日金七万六〇六四円、昭和五六年一月二〇日金三〇万円、同年二月二〇日金三〇万円の合計金六七万六〇六四円の弁済を受けたので、本件求償権の消滅時効の期間は、昭和五六年二月二一日から一〇年に延長された。」
(被控訴代理人の陳述)
原判決六枚目表七行目から同九行目までを、次のとおり改める。
「1 控訴人の前記主張二のうち、1の事実は知らない。その余の主張は争う。
2 仮に右二1の事実が認められるとしても、本訴請求債権は、前記信用保証委託契約に基づく求償権であって、瀬戸信金の主たる債務者に対する貸金債権が、代位弁済によって控訴人に移転された債権ではないところ、信用保証協会の求償権は、主たる債務者が商人である以上、商法五二二条により五年の短期消滅時効に服するものと解すべきである。
なお、控訴人が主張する、破産裁判所に対する債権移転の届出は、瀬戸信金の債権が一部控訴人に移転した旨を通知したものにすぎず、特別調査期日を開いて本件求償権を確定したわけではないから、右債権移転の届出によって、本件求償権につき、破産債権の届出がなされたと解することはできない。」
(証拠関係)(省略)
理由
一 いずれも成立に争いのない甲第二号証、第六号証、第八乃至第一〇号証、第一二乃至第一四号証、いずれも被控訴人作成部分につき成立に争いがなく、その余の部分は弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一号証、第三号証、第七号証、第一一号証によれば、請求原因1(一)(三)ないし(五)、2(一)(三)ないし(五)、及び3(一)(三)(四)の各事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。
そして、控訴人が主張する、本洲木工と控訴人との間、及び二回にわたる本州と控訴人との間の、各信用保証委託契約において、本洲木工または本州が控訴人に対して負担する債務について、被控訴人が控訴人との間で連帯保証契約をしたことは、当事者間に争いがない。
二 そこで、被控訴人が主張する消滅時効の抗弁の成否について、検討することとする。
本洲木工及び本州が、いずれも商法にいう会社であって、商人であるところ、本件訴えの提起時までに、控訴人が被控訴人に対して前記連帯保証債務の履行を求めうる日から五年を経過していることは、当事者間に争いがなく、被控訴人が本訴において右消滅時効を援用したことは、本件記録上明らかなところである。
次に、いずれも成立に争いのない甲第一五乃至第一八号証、いずれも原本の存在及びその成立に争いのない甲第一九号証、第二〇号証、並びに弁論の全趣旨によると、本洲木工及び本州は、いずれも昭和五四年に破産宣告を受けたので、瀬戸信金は昭和五五年一月一六日、本件貸金債権を含む、本洲木工及び本州に対する債権について、破産裁判所に破産債権の届出をしたところ、右破産債権は同月二四日異議なく確定し、その旨債権表に記載されたこと、その後控訴人が瀬戸信金に代位弁済したことにより、本洲木工に対する債権については同年三月一二日、また本州に対する債権については同年七月八日、破産裁判所に対して債権移転の届出をなし、その旨債権表に記載されたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
三 右認定の事実によれば、瀬戸信金が破産裁判所に対して前記破産債権の届出をしたことにより、瀬戸信金の本洲木工及び本州に対する本件貸金債権の消滅時効が中断され、右債権の消滅時効の期間は、破産法二四二条、民法一七四条ノ二により、本洲木工または本州に対する破産終結決定がなされた日の翌日からさらに一〇年に延長されたといわなければならない。そして、主たる債務者の債務の短期消滅時効期間が、民法一七四条ノ二により一〇年に延長されたときは、これに応じて連帯保証人の債務の消滅時効期間も、同様に一〇年に変更されると解すべきところ(最高裁判所昭和四三年(オ)第五一九号、同年一〇月一七日第一小法廷判決・裁判集民事九二号六〇一頁参照)、控訴人は、本洲木工または本州の瀬戸信金に対する本件貸金債務について、本洲木工または本州との間の信用保証委託契約の履行として、保証人になったのであるから、控訴人の瀬戸信金に対する保証債務の消滅時効期間は、右と同様の理由により、一〇年に変更されたものというべきである。さらに、主たる債務者である本洲木工または本州に対する控訴人の求償権が、右保証人としての立場において、控訴人によって代位弁済がなされた結果発生したことに鑑みれば、その消滅時効期間もまた、一〇年に変更されたというべきであり、右求償金債務につき連帯保証をした被控訴人の本件債務も、同様に一〇年の時効期間に服することになったというべきである(最高裁判所昭和四五年(オ)第六二二号、同四六年七月二三日第二小法廷判決・判例時報六四一号六二頁参照)。
しかるところ、本洲木工または本州に対して、何時破産終結決定がなされたかについては主張立証がないが、本件記録によって明らかな、本件訴えが提起された平成元年九月二一日までには、破産債権の債権表記載のときから起算しても一〇年が経過していないから、被控訴人の控訴人に対する本件求償金債務は、未だ時効により消滅していないといわなければならない。
したがって、被控訴人の前記抗弁は、採用することができない。
四 以上の次第で、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、理由があるというべきである。
よって、右と異なる原判決を取り消して、控訴人の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条前段、八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。